井上陽水「Just Fit」
沢田研二のアルバム『MIS CAST』(1982年)への提供曲。
井上陽水名義のアルバムでは『ガイドのいない夜』『GOLDEN BEST』『GOLDEN BEST SUPER』収録
「この曲の歌詞もBob Dylanの影響を受けていると思います」
陽水が2016年秋のツアーで言ったのが気になっていた。そういえばライブでこの曲を聴くのはとても嬉しいのに、歌詞を気にとめたことはない。ストーリーを追うヒマもなく歌の中に取り込まれてしまうからだろうか。 あらためて歌詞を見直しながら聴いてみる。とはいえ、比較するほどDylanの詩を知らない。ロバート キャンベル氏との対談なども手がかりに、丁寧に読んでみようと思う。 (歌詞はこちら またはお手元の歌詞カードで)
一節:♪ステーション ワゴンに俺は乗り込んで 夜の荒野をかけているところ
と始まります。
かがみ と あかり (音がa a i a a i と韻を踏んでる→以下"押韻と記載) バックミラー と ヘッドライト 撥音で押韻 あとを見る 前を照らす 反対語
二節:カーラジオがからかう 押韻 メイン道路のはずれ 反対語
トップモード と タップダンス 撥音で押韻
(女が道端でタップダンス!ヒッチハイクでしょうか(^^)ストッキングなおすふりして脚線美チラリよりはるかに大胆!それに、”夜の荒野”でしたよね。そんなときそんなところに女が居る?!)
(スーツケースから下着をチラリ?念が入ってます、笑)
四節:三節の「ゆく先」を繰り返す。
Red ルージュ ローズ R音 で韻を踏んで ワインとはずすリズム。
女はちょっとうつむき 車はUpライトに 反対語
(車はUpライトに転がる・・・・おや?自動車事故?)
五節:四節の「転がる」を繰り返す。知らないうちに知りすぎた
六節:急カーブにUターン 長音で押韻 六節で"ジャスト フィットなんだから" をくり返して終わります。 四節までは、現実にはありえないとしても状況を描ける。五節の"いろんな夜を転がり続けて"からは想像が遮られる。
♫"ステーションワゴンの中で暮らしてる" と歌ってはいるが、わたしはその絵を想像できない。いつなのかどこなのか。どこでもないのか。わかるのは、二人はジャスト フィットってことだけ。そのことばが何からも離れて浮かんでいる。
それまで歌われたリアルっぽい単語や情景は、どうでもいいみたいだ。 でも実はどうでもよくはないのだろう。何の話?と思わせながら、"just fit"とそう遠くはないニュアンスのフレーズが巧妙に置かれている。聴く者は、知らないうちに連想しメロディーに導かれて落ちゆく先を受け容れる。
先日のラジオ番組、ロバート キャンベル氏との対談「言の葉の海に漕ぎ出して」で陽水がボブ ディランの影響に触れて「韻を踏んでどんどん書く。予測してない言葉が出る快感。バランスも難しい。適当な距離感で言葉が出てくるとなかなかいいと思ったり」(引用は正確ではありません) という作詞の機微ともいうべき発言はこういうことだったのかと思う。
「Just Fit」
歌詞とは歌うための詩。聴かせるための詩。そしてたぶん気分好く歌える詩なのだろうか。
言葉のリズムが気持ちよく曲にはまっている。韻を踏む、対になる言葉や反対語を使う、少し前の単語を繰り返す。聴いていて気持ちがいいのは、歌詞にこんな仕掛けがあるからなのだった。 いろいろ書いてはみたが所詮独りよがり。あるいは誰でもわかっていることだったり。でもおかげで正月の数日間楽しめました。
「それで何を歌ってるの?」うーむ。やっぱりそれ聞きます?
新年ですね。 2017年
良いことが沢山ありますように!小さな悪いことがちょっとはあってもいいから。